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『センの夢見る』リーディング公演ディスカッションレポート
2024.01.17
2023年12月10日、『センの夢見る』リーディング公演が実施されました。2024年2月、東京芸術劇場 シアターイーストにて「芸劇eyes」の枠組みにて上演される本作品を、リーディング公演として別の演出家に託し、ワーク・イン・プログレスとして上演するという試みでした。
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『センの夢見る』あらすじ
1945年、オーストリアとハンガリーの国境付近の村レヒニッツに暮らす三姉妹のルイズ、アンナ、アビゲイル。彼女たちにとっての娯楽は、空想の旅に出ることだった。2月初旬、そんな三人に、近くのお城で開催されるという舞踏会への招待状が届く。夢のような招待にはしゃぐアンナとアビゲイルに対し、乗り気になれないルイズ。そこに隣人のヴィクターが訪ねてきて……。
2024年の日本、泉縫(いずみ・ぬい)と妹の伊緒(いお)の暮らす家。そこに、縫の生活を密着取材しているという自称YouTuberのサルタがやってくる。レンズを向けられ、縫もまんざらではない様子を見せる。サルタは、なぜ兄妹をカメラに収めるのだろうか……。
———ある日、二つの家庭のリビングルームが、一つの空間に重なってしまう———
交わった互いの生活は、果たしてどのように変化していくのか。
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リーディング終演後には、作家の細川洋平、演出の宮崎玲奈さん、そして出演者が登壇し、観客も含めたディスカッションが実施されました。内容の一部を抜粋してレポートします。
「ニュアンス抜き」を使った演出・稽古
細川
まず、この大変な試みに参加してくださった7名の俳優と演出の宮崎さんに感謝したいと思います。前提として、僕は台本をお渡ししてから稽古を一切観ていませんでした。劇場に入ってからも、場当たりも見ずに、今の上演を観客のみなさんと一緒に観ました。序盤、物語が始まり、何のことやらというところから、二つの時代があることが段々分かり始め、それがひたひたと宮崎さんの演出により表現されていたと思います。宮崎さんに質問ですが、演出や稽古はどういうふうにされたんでしょうか。
宮崎
6時間×3日間の稽古と、劇場の本番前の稽古を行いました。リーディング公演なので、声に出して発話で得られる情報が多いと思います。声や言い方によって伝わるものももちろんあると思いますが、言い方によってより多くの情報が伝わってしまうことを私は良いと思っていません。その場で起きることを大事にしたかったので、俳優の皆さんには台詞の読み方、覚え方から共有をしました。「ニュアンス抜き」という、棒読みというか、感情を入れない読み方で回し読みをするところから始まり、配役を決めて、劇場でのリハーサルで初めてその読み方を解除しました。
撮影:渡邊綾人
大石
稽古中は、台詞にほとんどニュアンスを入れないで読んでほしいということでした。僕としてはやったことがないことだったので、挑戦というか、新鮮というか戸惑いというか、色々なことがありましたが、素敵な時間を過ごせました。劇場の場当たりでも「ニュアンス抜き」で読んでいき、最終的な通しで初めて「ニュアンスを入れてください」ということでしたが、ニュアンスを入れていない時の方が、逆に伝わるなと思ったり、発見がありました。
生越
リーディング公演への出演自体や、ニュアンスを抜いた稽古をするのも初めてでしたが、稽古時間には思った以上にいろんなことを想像できました。作品について、今までより幅広くいろんなベクトルで考えられたと思います。初通しでニュアンスを解放した時には、初体験が多くてどきどきしながらやりましたが、自分にどんな変化が起きたかをずっと考えながらやっていました。
撮影:渡邊綾人
観客との質疑応答
質問①
舞台上に散らばっている本については、どういう意図があったんでしょうか?
宮崎
ある言葉からいろいろな連想ができる、抽象的な言葉の扱い方というものがあると思います。直接は描かないけれど想像できる余白、それってすごく演劇的だと思います。今回、これまで物語として扱われていなかった人たちが描かれていますが、それでもそこからこぼれ落ちているものってあるよな、と。それを本や椅子として枠の外に存在させたいと思いました。戯曲から連想したものを川みたいに並べられたら、という思いがありました。
撮影:渡邊綾人
質問②
現代の日本とパレスチナなどを想起しました。作品を書こうと思ったのはいつ頃でしょうか? また、本公演の2024年2月に向けて、情勢が変わるかもしれないことについてはどう考えていますか?
細川
どういう作品を作ろうかということは、去年から考えていました。それから、資料をあたって具体的な道筋ができたのは5月あたりです。現在の情勢が数ヶ月で大きく変わる気はしていません。歴史は繰り返すというか。実際、6月以降情勢は変わっていないし、むしろ悪化しているので、題材的には十分通じると思います。
撮影:渡邊綾人
今後に向けて
宮崎
2024年2月の公演に向けて、この作品の演出家はバトンタッチしますが、その後に拾える選択肢、ボールが少しでも残せたらいいなと思っていました。演劇は支持体だと思っているので、作品の経過過程を開くことで、一緒に見る、作る経験をできたのが良かったです。
細川
出演者に初めて声を出して読んでもらう場に自分がいないというのが初めてで、今までと全く違う視点を持って作品を観られたのが良かったです。宮崎さんに、スーパーアウェイな状況にも関わらずこうして演出してもらえたことに関しても感謝を伝えたいです。良い意味でプレッシャーになりました。宮崎さんの遺伝子を残しつつ、より濃密な作品を作って2月に向かっていきたいです。